2023年現在、十勝には4つのワイナリーが存在します。広い十勝では同じ品種でも気候や地質が違い、できるブドウやワインの味も違います。「畑ごとのワインづくり」にこだわるめむろワイナリーの代表取締役・尾藤さん、醸造責任者・尾原さんにお話を伺いました。
めむろワイナリー
-
多様なブドウで個性豊かなワインを
多様なブドウで個性豊かなワインを (尾藤さん)
僕らはジャガイモとかビートとか小麦とかを作っている農家なんですけど、ここでもブドウを栽培してワインを作ったら、町中がもう少し豊かになるのではないかと思っていました。 新嵐山スカイパーク(※現在休業中)につくれば、あの周辺が活性化するのではないかということから、ブドウを植えてワイナリーをやろうよという話になりました。 -
特徴は「畑ごとのワインづくり」
特徴は「畑ごとのワインづくり」 (尾藤さん)
どういうワインを作ろうかと話し合ったとき、ワインは人それぞれイタリア産が好きとか赤より白がいいとか、好みがわかれます。それじゃいっそのこと「各人が作りたいワインを作ろう」というところに落ち着きました。それで1つの醸造所を共同で運営し、それぞれのブドウでそれぞれのワインを作りましょうという方針に決めました。そのほうが後々のマーケティングとしても面白いかもしれないよねっていうところに行き着いたのです。 -
畑ごとの違いは、飲み比べてこそわかる
畑ごとの違いは、飲み比べてこそわかる (尾藤さん)
誰のワインが一番おいしいって、そりゃ自分のに決まっています。ワインづくりはプライドです。劣等感は人間には必要ありません。ブドウ栽培やワインの醸造に関しては仲間と情報交換したり、アドバイスしたりもしますが、やっぱりライバル心はあります。プライドとプライドのぶつかり合いです。お客さんに「4つの生産者で味は違うんですか?」と聞かれたら「飲み比べてみてください」と答えるんです。そうすると、4本買って飲み比べてくださり、「こんなに違うと思わなかった」と満足していただけることこそ、すごく価値があることだと思います。 -
芽室町のブドウ栽培
芽室町のブドウ栽培 (尾藤さん)
同じ芽室町内でも、地域により気温や雨量、土壌が違います。適地適作とかその作物によって、どういう養分が必要か、ということは僕らは畑作農家だから経験として身についています。ヨーロッパ視察したときに「やっぱり!」と確信しました。それは「大切なのはミネラル」ということです。それはブドウの木にとって必要なミネラルではなく、土壌に棲む微生物のためのミネラルです。微生物が活性すればいい土になる、いい土にはいいブドウが成るということです。 -
寒冷地での挑戦と革新
寒冷地での挑戦と革新 (尾藤さん)
問題は冬越しでした。いかにしてこの寒い芽室町でブドウの木を越冬させるか。池田町では土を被せて寒さから守っていますが、僕らはとてもそんな手間のかかることはできません。考え付いたのはビニールで囲うということです。小さく細長いビニールハウスで越冬できることを発見しました。ヨーロッパでもやっていないことで、寒冷地栽培としては僕らが世界で初めてだと思います。ほかの作物の応用で、農業人ならではの発想です。 -
ワインづくりは減点法
ワインづくりは減点法 (尾原さん)
ブドウあってこそのワインづくり。ブドウの品質が一番ですので、ワイナリーの仕事は減点法であると思っています。ブドウが100点で、私の仕事は引き算であると思っています。栽培、収穫、選別、醸造、全てのステップで少しでも手を抜けば、あっという間にブドウ、そしてワインの品質は損なわれてしまいます。農家さんが丹念に努力を重ねて育てたブドウの品質を表現できるワインづくりを心がけています。 -
畑ごとのワインならではの製造と管理
畑ごとのワインならではの製造と管理 (尾原さん)
9月の下旬、収穫したブドウをワイナリーに持ち込み、選別する作業から始まりますが、その作業も真剣そのものです。農家さんたちはいいワインを作るために「なるべく良いブドウを」と丁寧に選別します。発酵・圧搾の作業を経て、年末12月から1月にかけて樽に入れる作業を行います。この段階でもそれぞれの農家のブドウやワインは一切混じわりません。熟成させる樽にもそれぞれの名前が書かれており、継ぎ足すワインも必ずそれぞれのワインを注ぎます。翌年樽から出されたワインはボトルに詰められ、農家さんの名前を書いたラベルを張って販売されています。 -
めむろワイナリーの未来
めむろワイナリーの未来 (尾藤さん)
今後の抱負は芽室町内でブドウ、ワインを作る農業人が増えることです。ワイナリーの醸造施設はまだ余裕があります。ブドウ栽培、ワインづくりは夢があって楽しい。ただ大変なのは、生計を立てているほかの作物と農繁期がバッティングしてしまうこと。 農家の経営的感覚では、リスクを背負って新しい作物を栽培するのはなかなか難しい。でも、僕はそれほど頭はよくないが直観力には自信があります。お金は後からついてくる。それぐらいの意気込みがなければやれません。何年後かにめむろワイナリーが高い評価を受け「やってよかったね」と言われる、僕にはそれしか想像できません。
めむろワイナリー
代表取締役 尾藤光一さん
醸造責任者 尾原基記さん